特性と困難点

認知特性による日本語学習上の困難点とは

発達障害,精神障害のある学生の学習上の困難点

日本学生支援機構(2015)によると、障害とその認知特性による学習上の難しさは以下の通りです。詳細は引用文献をご確認ください。

 自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder、以下ASD)の特性に、社会的コミュニケーションと相互作用の困難さがある。言葉を字義通りに解釈したり、規則に忠実に行動することにより、コミュニケーションが阻害されたりする。また、こだわりがあることにより他者と共同作業をすることが困難になる。事例として,「授業中に教員のちょっとした言い間違えをいちいち指摘して進行を妨げる」「実習で指導教員が,さりげない話題から入って徐々に関係を作りなさいという意図で『少しずつ近づきなさい』と助言したところ,椅子を相談室の端から少しずつ患者さんに近づける不審な行動をして患者さんに激怒される」が挙げられている。

 注意欠如・多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder、以下ADHD)の学生は、注意力の制御が困難であるという特性を持つ。そのため、場にそぐわない衝動的な行動をしたり、時間管理や整理整頓ができなかったりする傾向がある。また、同じ間違いを繰り返してしまうことから、他者からの信頼を失ったり、そのことで自信を喪失したりするという。

 限局性学習症/限局性学習障害(Specific Learning Disorder/Learning Disabilities、以下LD)の学生は,知的能力には問題がないにも関わらず「読む」「書く」「計算する」ことに著しい困難がある。困難が文字の読みに起因するディスレクシア(失読症、読字障害)もLDに含まれる。読み書きに難しさのある学生は、内容理解において部分的な理解に留まる傾向があること、書字の乱雑さだけでなく文章生成における内容の乏しさがあることも指摘されている。
 ASD、AHDH、LDの特性が重複することも報告されており、支援の際は障害名によらずに、学生の抱える困難がどのような機能障害によるものであるかを把握することが重要であるとしている。

 精神障害としては、統合失調症や気分障害等があるが、いずれも不安やうつ症状により身体の不調や学業に専念できない等の困難が見られる。こうした精神障害は、発達障害の二次障害として報告されていることもあり、教育的な配慮はもちろん、早期に医療にアクセスし治療をすることが重要になってくるという。

引用文献:日本学生支援機構(2015)「6.発達障害」「7.精神障害」『教職員のための障害学生修学支援ガイド(平成26年度改訂版)』PDF版 https://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/shogai_infomation/shien_guide/index.html

認知特性のある日本語学習者の学習上の困難点

教員を対象に行った調査結果(武田・澁川・保坂 2022)に見られた日本語学習者の学習上の困難点です。パーセンテージは教員の回答を表したものです。

1.学習者の日本語理解(聞くこと,読むこと)における難しさ

項目
学習者の日本語力で理解可能な内容であるが、何かを理解する際、早合点や飛躍した考え方をする。 64
学習者の日本語力で理解可能な内容であるが、指示や質問の意図が理解できなかったり誤って理解したりする。 56
(教師から見て)覚える意欲があり十分に練習しているように見受けられるが、文字の認識が難しい。 50
学習者の日本語力で理解可能な内容であるが,抽象的な概念や物事の因果関係を理解することが困難である。(例:読解の際,原因と結果の関係をとらえられない等) 32

2. 学習者の日本語理解(音読すること,書くこと)における難しさ

項目
学習段階が進んでいても、促音、拗音、長音、撥音の間違いが繰り返し見られる。 51
(教師から見て)覚える意欲があり、十分に練習しているように見受けられるが、その学習段階に合った基本的な文字の産出が難しい。(例:正しく音読できなかったり、書き誤ったりする。鏡文字を繰り返し書く。存在しない解読不可能な文字を書く等) 47
その学習者の日本語力で簡単に理解できる文であるが、音読する際、書いてあることと違う読み方をしたり、書いてある語句や行を抜かして読んだりする。(例:「いきました」を「いました」、「学校へ行きました」を「学校を行きました」と読む等) 39
文字や文章を書き写す際、簡単な字形であっても、正しく書くことが困難である。(例:板書や練習問題等の問題文で示された語を正しく書けない等) 30

3. 学習者の授業内の行動における難しさ

項目
時間管理が苦手で、計画的な行動ができない。(例:遅刻が多い、課題の提出期限を守れない等) 69
整理整頓が苦手で、配布された教材の管理ができない。 65
授業等で教員やクラスメイトの発話を聞いていないと感じられることがある。 59
クラスメイトと協力して課題に取り組むことが難しい。(例:ロールプレイ、プロジェクト等) 51
授業に集中していない様子が頻繁に見られる。 50
思いつくままに話したり、場面・文脈から外れた発話をしたりすることがある。 46
よく忘れ物をしたり、物を失くしたりする。 43
順番を待たずに発言し、クラスメイトの話や活動をさえぎることがある。 40
新しい方法や急な変更をすぐに理解し対応することが難しい。(例:スケジュールやプロジェクト・試験等の進め方等に変更があった場合,新しい進め方を理解して行動できない等) 34

 本人が努力しているにも関わらず、日本語学習がうまくいかない、間違いを繰り返してしまうことで、日本語への学習意欲が低下するおそれがあります。その場合、学習者が何らかの認知特性を持っている可能性も検討し、その特性を考慮した支援をする必要があるのではないでしょうか。

引用文献:武田知子・澁川晶・保坂明香(2022)「日本語学習者の学習困難とその支援:調査結果から見えてみたもの」日本語教育(182)pp.80-94